所轄庁は、NPO 法人に法令、行政庁の処分または定款に違反する疑いがあると認める相当な理由があるとき、業務や財産の状況について報告を求め、職員を事務所に立ち入らせて帳簿や書類を検査できます(特定非営利活動促進法〈以下「NPO 法」〉第41条第1項)。理由もなく行われるものではなく、疑いを確かめるための手続です。
報告や検査で問題が確かめられると、改善命令、さらに設立の認証の取消しへと進むことがあります。一方で、事実を示す書類がそろっていて、問われたことに正確に答えられれば、疑いが解けることもあります。この記事では、報告徴収と立入検査がどんなときに、どんな手続で行われるかと、求められたときの動き方、ふだんからの備えを、法律と内閣府の手引きにもとづいて整理します。
どんなときに行われるか
所轄庁の監督の権限は、法人の種類で条文が分かれています。
| 法人 | 条文 | 報告や検査ができるとき | 行う者 |
|---|---|---|---|
| 一般の NPO 法人 | 第41条 | 法令、行政庁の処分または定款に違反する疑いがあると認められる相当な理由があるとき | 所轄庁 |
| 認定 NPO 法人・特例認定 NPO 法人 | 第64条 | 法令、行政庁の処分もしくは定款に違反し、または運営が著しく適正を欠いている疑いがあると認めるとき | 所轄庁。所轄庁以外の関係知事も、その都道府県の区域内の業務や事務所について行える |
報告を求めること(報告徴収)と、事務所に立ち入って検査すること(立入検査)は、同じ条文に並んで書かれています。どちらか一方だけのこともあれば、報告を受けたうえで立入検査に進むこともあります。
きっかけの例として、内閣府の手引きの Q&A は、その他の事業で2事業年度続けて多額の赤字が生じるような場合に、報告徴収・立入検査の対象となる可能性があると説明しています。その他の事業は、特定非営利活動の事業に支障がない範囲で行えるものとされているためです(NPO 法第5条第1項)。このほか、事業報告書等が期限までに出ていない、市民や関係者から所轄庁に情報が寄せられた、といったことが確かめのきっかけになることがあります。
検査の手続には決まりがある
立入検査は、所轄庁が自由に進められるものではなく、NPO 法に手続が定められています(第41条第2項〜第4項)。
- 理由の書面:所轄庁は、検査をする職員に、法令などに違反する疑いがあると認められる相当の理由を記載した書面を、あらかじめ法人の役員や事務所の管理について権限を持つ人に提示させなければなりません。役員などがその書面の交付を求めたときは、交付させなければなりません
- 身分証明書:検査をする職員は、身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければなりません
- 犯罪捜査ではない:検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならないとされています
法人の側は、理由の書面を受け取って、何について疑いを持たれているのかを正確に知ることができます。口頭の説明だけで済ませず、書面の交付を求めて手元に残しておきます。
報告や検査のあとに起こりうること
報告や検査の結果によっては、次の段階に進みます。
| 段階 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 改善命令 | 設立の認証の要件を欠くに至ったと認めるとき、その他法令などに違反し、または運営が著しく適正を欠くと認めるとき、期限を定めて改善に必要な措置を命じる | 第42条 |
| 設立の認証の取消し | 改善命令に違反し、他の方法で監督の目的を達せないとき。または3年以上にわたって事業報告書等を提出しないとき | 第43条第1項 |
| 命令を経ない取消し | 法令に違反し、改善命令では改善を期待できないことが明らかで、他の方法で監督の目的を達せないとき | 第43条第2項 |
認証の取消しの前には聴聞が行われます。聴聞の期日の審理は、法人から請求があれば公開で行うよう努めることとされ、公開しない場合、所轄庁は理由を書いた書面を法人に交付しなければなりません(第43条第3項・第4項)。
認定 NPO 法人と特例認定 NPO 法人には、別の流れがあります。認定の取消しの事由に当たると疑うに足りる相当な理由があれば、所轄庁は期限を定めて改善の勧告をすることができ、勧告をしたときはその内容をインターネットなどで公表しなければなりません(第65条第1項・第3項)。正当な理由なく勧告に従わなければ、措置を採るよう命令できます(同条第4項)。認定の要件は「認定NPO法人の要件と申請」をご覧ください。
求められたときの動き方
所轄庁から報告の求めや立入検査の連絡が来たら、次の順で進めます。
手順1 書面を読み、理事長と監事に共有する
求められている事項、提出の期限、理由を確かめます。書面を受け取った事務局だけで抱えず、理事長と監事にすぐ共有します。監事には理事の業務執行と法人の財産の状況を監査する職務があるため(第18条)、早い段階から状況を知っておいてもらいます(「監事の監査」)。
手順2 窓口を1人に決める
所轄庁とのやりとりは、理事長か、理事長から任された1人に絞ります。複数の人がばらばらに答えると、説明が食い違って疑いを深めることがあります。やりとりの日時と内容は、そのつど記録します。
手順3 求められた書類をそろえる
報告を求められた事項について、事実を示す書類をそろえます。多くの場合、次の書類が中心になります。
- 定款、役員名簿、定款等の認証と登記に関する書類の写し
- 事業報告書、活動計算書、貸借対照表、財産目録、年間役員名簿
- 会計帳簿、預金通帳、領収書・請求書などの証憑
- 理事会・総会の議事録
- その他の事業を行っている場合は、その会計の区分が分かる書類
手順4 事実にもとづいて答える
分かっていることと分かっていないことを分けて答えます。すぐに分からないことは、推測で答えず「確かめて何日までに報告する」と伝えます。事実と異なる報告は、それ自体が過料の対象です(第80条第10号)。
手順5 指摘されたことを直し、記録を残す
検査の中で指摘を受けたら、理事会で直し方と期限を決め、直した結果を所轄庁に伝えます。指摘の内容、直したこと、日付を記録に残し、次の事業年度の事業報告の準備に生かします。法的な判断が必要なことや、指摘の内容に納得できないときは、弁護士などの専門家に相談します。
ふだんからそろえておくもの
報告や検査に慌てずに応じられるかは、ふだんの書類の管理で決まります。次の点を年に一度は確かめておきます。
- 事業報告書等を毎事業年度初めの3か月以内に作り、事務所に備え置いている(第28条第1項)
- 役員名簿と定款等を事務所に備え置いている(第28条第2項)
- 事業報告書等を毎事業年度1回、所轄庁に提出している(第29条)
- 役員の変更や定款の変更の届出・認証の手続を済ませている
- 会計簿を正規の簿記の原則に従って記帳し、証憑と合わせて保存している(第27条)
- その他の事業を行っている場合、会計を区分し、利益を特定非営利活動の事業に使っている(第5条)
- 理事会・総会の議事録を作り、保存している
提出と備置きの書類と期限は「事業報告書の作り方と提出」に、役員の手続きは「役員の改選と変更の届出」に、年間の段取りは「事務局の年間スケジュール」にまとめています。
実行時の落とし穴
- 事業報告書等の未提出を放置する:3年以上にわたって提出しないことは、それだけで設立の認証を取り消せる事由です(第43条第1項)。遅れているときは、報告や検査を待たず、所轄庁に相談して提出を進めます
- 書類が事務所に無い:担当者の自宅や個人のパソコンに書類が散らばっていると、検査で求められてもすぐに出せません。保管の場所を決め、事務所で出せるようにしておきます
- 理由の書面を確かめない:何について疑われているのかを確かめないまま、関係の薄い書類まで大量に出すと、確かめに時間がかかります。求められた事項に沿って準備します
- 検査を先延ばしにする:日程の調整は相談できますが、理由なく応じないことは、検査を拒む・忌避することに当たるおそれがあります(第80条第10号)
- その場しのぎの説明:その場で分からないことを推測で答え、後から食い違いが出ると、虚偽の報告と受け取られかねません
まとめ
所轄庁の報告徴収と立入検査は、違反の疑いに相当な理由があるときに行われる確かめの手続です。立入検査では理由を書いた書面があらかじめ示され、求めれば交付を受けられます。求められたら、書面を読んで理事長と監事に共有し、窓口を1人に絞り、事実を示す書類をそろえて正確に答えます。報告をしない・うその報告をする・検査を拒むと過料の対象になり、3年以上の事業報告書等の未提出は認証の取消しの事由になります。ふだんから書類を事務所にそろえておくことが、いちばんの備えです。
「運営・法務」の記事一覧では、所轄庁への報告や役員の手続きをほかにも扱っています。
参考資料
- 特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第5条・第18条・第27条〜第29条・第41条〜第43条・第64条・第65条・第80条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/410AC1000000007
- 内閣府「特定非営利活動促進法に係る諸手続の手引き」(令和3年6月)NPO法人に対する監督等、Q&A 問56: https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/202106_manual_all.pdf